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サリーのきもち。

29歳独女サラリーマンの、日々のうんぬん。

ファッションに、全人類が興味を持って、全人類がオシャレを目指さなきゃならないの?んなことないよ。

いつだったか、ダイニングバーに行ったときのこと。

 

カウンターのみの、小さなその店に、その日、私は初めて入った。

店は常連さんでいっぱいで、
ひとつだけ空いていた席に、みんなが私を温かく迎え入れてくれた。

 

 

 

常連さんと、マスターと、他愛もない話をしていると、
そこに居たひとりの男の子に、話題の的が、当たった。

 

 

男の子、というのは失礼か。

確か、22~23歳だったと思う。

メガネをかけていて、無難な短髪に、無難なスーツの、小柄な子。

一人で来ていた。よく来るという。

 

人見知り、というわけでもないけど、
自分のペースの中で、穏やかに時間が流れているような子だった。

読書好きそう。派手なパーティには興味がなさそう。

そんな感じ。

 

彼を囲んだ常連さんたちは、彼(トクちゃんと呼ばれていた)に、
「もっとファッションに興味を持て」と言い始めた。

 

「トクちゃんさ、まずメガネやめてみなよ」

「そうだよ!絶対印象変わるよ!」

「それでさー、松田翔太みたいな髪型にしてー」

「もういっそ一回くらい横剃ってみるとかね。キンパとかさ」

「絶対カッコよくなるよ。まずさ、今週美容院行きなよ、オレ検索するよいいサロン」

「代官山でしょ、やっぱ。」

 

 

彼は、ずっと、戸惑った無表情を浮かべていた。

「えー・・・」

「うーん・・・」

 

後から聞いた話、彼はお店にはよく来るものの、
こんなに周りにフォーカスされたのは、初めてだったらしい。

 

 

私は、ちょっと可哀相だなと思って見ていた。

 

 

私はファッションが大好きだ。

だいぶ、派手な服も着る。髪の色も、本日時点で紫だし。

 

でも、「ファッションを楽しむこと」を、人に押し付けたりはしない。

自己の表現手法は、人によって違うし。

無難な服を着て、人から注目を浴びないでいることで、

穏やかで安心した気持ちになれるなら、それでいいんじゃないかとも思う。

「普通」がほめ言葉で、安心で、

「おしゃれ」な服は怖くて面倒で選べない人は、いっぱいいる。

 

確かに、若いうちに色々とチャレンジすることは、賛成する。
今のうちに、色々試して、失敗して、発見して、、、ってすることは、
すごくいいことだと思う。

 

見かけを思いきって変えることで、
周囲の環境が、変わることもあると思う。
自分に自信も、湧くかもしれない。

 

でもなんにしたって、それは本人が選ぶことだ。

 

 

彼は、決してダサくはなかった。

もちろん、不潔なわけでもない。

誰のことも、不快にはしていないはずだ。

 

 

「絶対そのほうがいい」

「変えるべきだ」

なんて、

どうして言えるのかな?

 

 

自分が必要とも思っていないことを、

理由の説明もなく、さもそうしないと、悪いような言い方をされたら、

居心地がわるいだろうなぁと思った。

 

 

 

「さっちゃんもそう思うでしょ?メガネない方がいいよね」

 

ふと、常連のひとりにそう振られた。

少し、言葉に詰まった。

 

「うーん。。。どうだろう、試してみるのはいいかもね。
 誰しもおしゃれにならなきゃならないわけは、絶対にないけど、
 いろんなことに、今のうちに、たくさんチャレンジしてみるってことは、
 トクちゃんにとって、いいことだとは思う」

 

と、言った。

 

「だよねー!」とハモったあと、

絶対祭りは引き続き続いた。

 

 

その後、お店には行ったけれど、そこにいた人たちには誰にも会っていない。

 

トクちゃんはメガネをやめたのかなぁ。